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「えっと…こっちがセイナム町だからー、…あれれ?」
ヤンを出た驢は次の町へ行く途中、十字路で迷っていた。
「うーん、…………こっち!!」
もちろん彼の勘である。
ズンズン進んで行くと、河辺に出た。
「こっちじゃないや…」
引き返そうと回れ右しようとしたその時…
「誰かーー!!助けて!!ソフィーを、彼女を助けて!!」
若い男のすごい悲鳴が聞こえた。川を見ると、女らしき人が水面から腕だけ出して流されてゆく。驢は思わず土手を駆け下り、川に飛び込んだ。
故郷の山の急流で鍛えた少年は魚のようにしなり、あっという間に女の人に追いついた。
そして無事、女性を抱えて岸へと泳ぎ着く。
しかし、大丈夫ですかと声をかけても答えない。目は開いているが呼吸をしていなかった。脈をはかる。しかし彼女の手首に動きは感じられなかった。
急いで人工呼吸と心臓マッサージをする。しかし一向に息を吹き返さない。
だめだ。間に合わなかった――
その時、声がした。
「おーい!ソフィー!それからさっきの少年ー!どこだー!?」
あの青年だ。助けられなかったって素直に謝ろう。逃げたいけど。
きっと誠意が伝われば許してくれるよ。逃げたいけど。
「あ、あ…、あのっ!ここですっ!」
立ち上がって、どこにいるかも分からない青年に位置を教える。
しかし彼はなかなか現れない。
数分経って、逃げたい感情が最高潮に達した時,青年は姿を現した。
「よう!」
明るい笑顔で挨拶された。
「…え?つーか今茂みから出てきませんでした?」
「…え?それはちょっと様子を見ててな。つーかツッコミ所違くね?」
「…え?つーかなんで彼女が死んでるのに笑顔でツッコミの話なんですか」
驢の言葉に、青年は目をパッと見開いて喜んだ。
「そーそー!そのツッコミが欲しかった!」
「………は?」
「実はな…かくかくしかじかでこーやったらそーなったんだよなー」
「わかるかそんな説明で!!」
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