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夢蒔に続きができたのは、あの日から5日後のことだった。
夢蒔と逢った公園の先に私の通う短大はあって、公園の真ん中を横切ることがショートカットになっている。
あの日から私はここを通る度ゴミ箱を見てしまう癖がついた。
ベンチにたたずむ夢蒔の姿。
夢蒔はゴミ箱の脇で四つん這いを全うしているベンチに座りコーラを飲んでいた。
心臓がきゅんと縮む。
一瞬、目が合ったような気がしたので私はいろんな覚悟をしてみたのだけれど、それら全部は空振りに終わった。
夢蒔は私を空気や景色を見るような目で見ていた。
通過経路にすぎない、そんな心もとない視線だった。
思いきって夢蒔の所まで歩く。
そして照らしていた太陽を背中に隠し夢蒔を私の日陰に入れた。
「こんにちは」
私は言う。
夢蒔は相変わらずの無表情で「こんにちは」と泡のはじける声を返した。
夢蒔は相変わらず遠くを見ている。
まるで当たり前のように私たちは何も言わず向かい合っている。
この無言はキスする前の息苦しさに似ている。
鼻息や呼吸すべてを消したくなるような、
うまく肺に酸素が送れないような、
そんな感覚によく似ている。
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