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「襲いかかったりしないから、もしヒマならここでまってて、
海がみたい、めいこちゃんと、
俺、そろそろ行かなきゃ、
じゃあよろしくね」
夢蒔は一方的に言い捨てると、私の手を取って飲みかけたコーラのペットボトルを「おかえし」と握らせ公園を後にした。
私は去っていく夢蒔の背中を見つめながら、しばらくベンチでボーっとした。
フラミンゴも群へ帰ってしまって、少しずつ周りのピンク色が溶けるように消えていく。
私は手に残った夢蒔のコーラを思いきって飲んだ。
胃の中にコーラが浸透する度、濃いピンク色が滲むように蘇る。
夢蒔がつけている香水のおいがほんの少しペットボトルに移っていて、目をつむると夢蒔がそこにような気がした。
恋愛の入口でいつも感じる嫌な予感が夢蒔の時には一度も感じられない。
なんていうか、相手の独占を窮屈に感じる私のどこかが警告してくる信号のようなもの。
私はそれを"母の声"と勝手に呼んでいたのだけど。
よく考えてと母が言っている、そんな声。
私の人生に生身で関われなかった分、こういう予感のようなもので、私は母を無性に感じるのだった。
その声が今は全く感じられない。
母が何というか、この恋愛ともとれない小さな光に賛成してくれている、そんな気がした。
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