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「女は男に振られた。そんで、女は何事もなかったかのように、そこを立ち去った」
俺はあえて、自分と彼女が絡んだところは話さなかった。
「なんで、その女は男に振られたの?女が浮気したとか?」
「そうじゃない。女はただ単に、前の男が忘れられなかったんだよ。それに男は嫌気がさしたんだとさ…てかさ、仕事しろよ。課長…、さっきからずっと俺ら見てる」
「えっ?」
そう発したと同時に、ミケは視線を課長へと向ける。
課長と目でも合ったのか、その顔は次第に真顔へと変貌を遂げる。
能面でも着けているのではないかと思いたくなるほど、課長の仕事モードの顔は異様な雰囲気を醸し出している。
それをどう表現したらよいか分からないが、何か語りかけられているような…心を見透かされているような…嘘がつけなくなるというか……。
とりあえず、課長の顔を見ていると──見つめられると、今のミケのように表情を取り繕うことが出来なくなる。
そうなってしまえば、あとは
「ミケ、仕事」
「あ…あぁ」
今すべきことを少し促してやれば、素直にそれに従う。
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