忘れられない

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俺が盗み聞きしていることに気付かないということは、どうやら二人はこのドアから死角になる所にいるようだ。 その証拠に、大胆にけれど音は発てないように開けても二人からは何の反応もない。 それにドアから顔を覗かせ中の様子を伺っても、棚に積まれた備品で部屋を覗くことが出来ない。 この部屋はまだ備品はそのままに近いようで、俺がいた部屋に比べると備品が多く感じられた。 「俺は、“アイツ”の代わりなだけなんだろ?俺と“アイツ”を、お前はずっと比べていたんだろ?」 「ち、違う! 久弥(ヒサヤ)と“あの人”とを、比べてなんかいないっ。私は──…」 女は慌てて男の言葉を否定するが、言葉に詰まる。 すると、二人は同時に黙り込む。 少しして男のため息が聞こえ 「お前にその気がなくても、俺はいつも“それ”を感じてた。我慢しようと、お前はちゃんと“俺を”見てる…自分に言い聞かせるように、そうやってここまできた。だけど、もう無理だ…」 そう男は辛そうに、声を押し出すように言い少し間をあけて 「これ以上、一緒にいたら…俺はお前を傷付けないと言い切れない。…って、もう傷付けてるよな。でも、“その時”は今以上…お前を傷付ける」 .
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