忘れられない

5/17
前へ
/31ページ
次へ
「だから、これで…終わりにしよう。お互いのために…」 そう男が言うとその場には、女のすすり泣く声だけが響く。 「それじゃ、俺は仕事に戻るから…お前もできるだけ、早く仕事に戻れよ?」 男のその言葉に、女は何も言い返さない。…返せないと言うのが正しいのかもしれない。 そのまま俺は足音が向かっていることに気付き、慌てて倉庫を飛び出した。 近くの廊下の角から倉庫の入り口を見張っていれば、少しして男が一人出てきた。 俺は男の正体に、正直驚いた。 とくに話したことがあるわけではないが、会社の中では少し名の知れた男だ。 それは仕事が出来るという面でも、女に関してもだ。 そんな男に、あんなことを言わせる女って一体、どんな女なんだ。 スゴく気になった俺は、じっとなんてしていられなかった。 だから俺は、男の姿が見えなくなってからまた倉庫の中へと戻った。 入った部屋は、何事もなかったかのように静かだった。 しかし、もう一枚ドアを開けばそこは──… 「──っ…くっ…ふっ…うっ…」 …今あったことを俺に分からせるには十分なほど、女の悲痛な思いで満ちていた。 .
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加