忘れられない

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まるで、自分が彼女を泣かせたような気持ちになるのは…どうしてだろう。 …──俺はただ、その場に居合わせただけなのに。 「退いてくれませんか?」 「へ?」 突然耳に届いたその声に俺の思考は停止し、間抜けな声を漏らす。 声がした方へ視線を向ければ、そこには少し顔を伏せ気味に女が立っていた。 この部屋に俺以外の野次馬がいないとすれば、彼女がさっきの女ということになる。 顔を伏せ気味に立っていることからも、その可能性は高くなる。 どうしてかと言えば、きっと泣いたことにより化粧が崩れてしまったのだろう。 だから、その顔を見られたくないからの行動だと考えれば頷ける。 「貴女…名前は?」 どう考えても、この状況でこの質問は──おかしい。 けれど、どうしても聞いておきたかった。 同じ会社にいるのだから、またどこかで彼女に逢えるだろう。 しかしこの会社には、結構な人数の人がいる。 取り分け何故だかわからないが、男性より女性の方が多いのだ。 そんな状況で、声しかわからない彼女を見つけるのは大変なことなのだ。 だから、俺はあえて今聞いてみたんだ。 .
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