46人が本棚に入れています
本棚に追加
まるで、自分が彼女を泣かせたような気持ちになるのは…どうしてだろう。
…──俺はただ、その場に居合わせただけなのに。
「退いてくれませんか?」
「へ?」
突然耳に届いたその声に俺の思考は停止し、間抜けな声を漏らす。
声がした方へ視線を向ければ、そこには少し顔を伏せ気味に女が立っていた。
この部屋に俺以外の野次馬がいないとすれば、彼女がさっきの女ということになる。
顔を伏せ気味に立っていることからも、その可能性は高くなる。
どうしてかと言えば、きっと泣いたことにより化粧が崩れてしまったのだろう。
だから、その顔を見られたくないからの行動だと考えれば頷ける。
「貴女…名前は?」
どう考えても、この状況でこの質問は──おかしい。
けれど、どうしても聞いておきたかった。
同じ会社にいるのだから、またどこかで彼女に逢えるだろう。
しかしこの会社には、結構な人数の人がいる。
取り分け何故だかわからないが、男性より女性の方が多いのだ。
そんな状況で、声しかわからない彼女を見つけるのは大変なことなのだ。
だから、俺はあえて今聞いてみたんだ。
.
最初のコメントを投稿しよう!