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俺の意図など分かるわけもなく、彼女は何も答えずじっと俺が入り口から退くのを待っている。
ここは説明が必要なのかもしれない、と思ったがどう説明すればいいか分からず、俺は彼女が答えてくれるのを待っていた。
しかし、あまり長く仕事を抜けることは出来ないので、俺は彼女の胸辺りに手を伸ばす。
そこにあるのは、写真付きの社員カード。
──…椎木(シイキ)……
最後まで確認する前に、社員カードは彼女によって奪われた。
「なんなんですかっ、貴方は!」
怒っているようだが尚も彼女は顔を伏せ気味に、俺に向かって非難の言葉を浴びせる。
「貴女の名前が知りたくて…」
素直にそう答えれば
「だからっ、どうして私の名前なんて知りたいんですかっ?!」
少し叫ぶように俺に問いかける。
どうして…──理由はただ一つ。
「貴女が…貴女がどんな女なのか知りたかったから……──“あの男”に振られた貴女が」
俺は自分が“その現場”に居合わせたことを隠すことなく…悪びれることもなく、彼女にそう答えた。
それほど、俺は気になっていたんだ……───彼女という存在が。
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