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デイカリュブを討伐した三人は先程の屋敷を出て町中を西へと向かっていた。ようやく廃虚と化したこの町の出口に近付く中、レイスが不意にリーシャに尋ねた。
「そういえば、魔導覚醒をする時の呪文に、ガイアという名があったが何か意味はあるのか?」
「え、えぇ。あれは私が子供の頃に両親からよく聞かされた神話に出てくる創造神の名前なの」
「創造神?」
「うん。色々な神様が出てくる中で、ガイアは大地の女神って呼ばれていて、私が一番好きな神様だったから」
「ほぉ、成る程な。確かに自分にとって思いの強い言葉は、呪文に組み込むことで威力が上がることはよくある事だ」
そのまま西へ歩き続ける中、リーシャが思い出したかのようにレイスに尋ねた。
「そういえば呼んでくれたよね?」
「…………何をだ?」
嬉しそうな表情を浮かべるリーシャだが、遠回しな言葉にレイスは煩わしそうな表情を浮かべる。
「私の名前。今までずっと、あんたとかお前とかでしか呼ばれなかったから、結構嬉しかったの」
「……そうだったか?」
「うん」
心底、嬉しそうに話すリーシャを見て、レイスは呆れたようにため息を付いた。
「……その程度で喜ぶとは、ただの子供だな」
「私と大して年齢変わらないでしょ?」
「精神年齢の事を言っているんだ、阿呆」
そんな二人の会話を無言で聞きながら、ゼムルは何か思い詰めた様子で空を見上げていた。
そんな彼に気付いたレイスは訝しげに眉をしかめる。
「ゼムル。どうかしたのか? そうも黙られると気味が悪いんだが」
そんなレイスの悪態に、ゼムルはいつも通りの爽やかな笑顔を浮かべた。
「いや。ちょっと考え事をしていただけだよ」
「……? そうか。ならいいんだが……」
いつもと少し様子が違うゼムルだが、レイスは特に気にする事はせず、再び西に向かい始める。
リーシャも疑問げに首を傾げていたが、レイスの後を追って行く
そんな二人の後ろ姿、正確にはリーシャを見据えながら、ゼムルは小さな声で呟いた。
「聖女……か」
ゼムルは静かに笑みを溢す。その時の彼の表情は、どこか淋しく、悲し気で、どこまでも儚く佇んでいた。
† † † † † † †
第三章 崩壊の町【完】
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