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ダルシア大陸、南東部
交流の町シェイル。
世界の南に位置する熱帯の大陸ダルシアでは比較的発達した部類に入るこの町。
乾燥した荒地が広がる地形の中で、人々は生き生きとした表情で生活している。
そんな町のはずれにある小さな宿屋の二階。そこで黒髪の青年はふと目を覚ました。
部屋にはベッドがあるにも関わらず壁に背を預けた体勢で、青年は内心舌打ちする。
(ちっ……またあの夢か)
それは今だに色褪せることのない絶望の記憶だった。
あれは七年前に遡るが、今だに鮮明な映像として青年の夢に幾度となく映される。
目を覚まして間もなく、青年はふと自分が無意識に震えていることに気付くと、苛立つように立ち上がった。
「おはよう、レイス。朝から相変わらず不機嫌そうだね」
そんな彼に陽気な声で話しかけるもう一人の青年がいた。
椅子に腰掛け、分厚い本をパラパラとめくっている彼はまるで空のように美しい青の髪に、エメラルドのような緑の瞳をしている。
そんな彼の言葉に、レイスと呼ばれた青年が僅かに眉をひそめた。
「相変わらずは余計だ、ゼムル」
「ハハハ、だって事実じゃないか」
「……俺に感情など必要ない。それはお前もよく理解していることだろう」
黒髪の青年が一切の感情を消して淡々と言い放った。
余りにも寂しく、そして暗闇に満ちたその視線を、ゼムルと呼ばれた青髪の青年は静かに受け止めた。
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