残り香

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 枝分かれしたその先端には、まだふくらみもしていないつぼみがふたつ付き、やや緑色がかった外皮で固く身を覆っている。  これから春の風を受け育ち、やがて花を咲かせるつもりだったのだろうか。身を守るような外皮は、まだ咲くには早いとばかりに頑固に身を縮こませていた。  こんなふうに容易く折られてしまった枝に付いた花が、どのくらい生き長らえることができるのか知りもしないが、風にそよぐ木々の中で咲く花よりも、おそらくその一生は短いことだろう。  一度の悲鳴をあげたきり、すっかり黙してしまった枝を掴んだまま、どうしたものかとこちらも口を閉ざす。  まして、赤ん坊同然のつぼみともなれば。   『桜みたいな派手さはないけど、梅の花って情緒があるよな』    このまま捨ててしまえば、誰かに踏まれ、すぐに命は費える。  考えたところで、いまさら枝が元通りになるわけでもなく、手の中の枝を面白味もなく見据えた。   『あまり花には詳しくないんだけど――』    うっすら細めた瞳で濃い紅色の小花で彩られた木々を見上げ、少年は目深に被った帽子のつばを指先で持ち上げた。   『わりと気に入っている』    花を愛でるなど不似合いだと思っていた少年は、ただ目にしただけでは気付かれないような薄い笑みを浮かべ、そう呟いた。      普段見せる表情とはまた違うその笑みに、驚きと、そして嬉しさを感じたのは、いつのことだっただろう。      我が身の行く末でも案じているのか、手の中で静かにこちらを見上げる枝にふっと笑みを向け、足を進めた。  もし庭にでも植えたら、根付いたりするのだろうか。  細い枝は木の幹となるにはあまりにも過弱そうに見え、土に触れさせたところでたった独りでは生きていけるようにも思えなかった。  それでも、けして落とさぬようにとぎゅっと枝を握り、やや足を速めた。  その瞬間、なつかしい香りが、かすかに鼻をついた気がした。
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