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「おしっ完了」
銀は紙とペンをしまった。子供は今にも倒れそうなぐらい青ざめている。
「さあて,行こうぜ銀」
金が布で血を擦りながら車に向かう。
「あいよ。さ,行くぞ」
『えっ?ど…何処にですかっ…?』
「お前が行くべき場所にだよ」
にい と金は笑う。
そして子供も腕を無理矢理掴み斧を引きずるように引っ張り始めた。
「おい金。もっと丁重に扱えよ」
「やぁだよ。…今は,ね」
金はわめく子供に耳を傾けずに進んでいく。
金と子供はあまり大差ない年齢なのに子供は金に引きずられていく。
『誰かーっ!』
「誰も居やしねぇって。あるのは死体ばっかだぞ?」銀が金の横を歩く。
『ぜんいん…殺したの…?』
「あたり前~」
「残してるように見えるか?」
軽やかに答える二人を見てやはり子供は怯えてしまった。
「なあ銀~俺やっぱり信じらんねぇわ」
「奇遇だな。俺もだ」
隠した車まで着くと後部座席のドアをあけて子供を放りこむ。
『いたっ』
「静かにしろよ~」
金と銀が車に乗り込むまえに子供はドアを開けて逃げようとする
けれど金に足首を掴み捕えられてしまった。
「おいおーい…戻っても死体しか無いぞ~?」
酷く爽やかに笑う金。
『死体は…僕を傷付けない…だってっ!』
「「死んでるから」」
子供は自分が言おうとした事を先に言われて驚いている。
金と銀も顔を歪めてはいるが,その表情からは驚きよりつまらなさそうに見える。それとすこし寂しそうな。
「やっぱそうなんだな」
「ああ。そうなんだ。」
金と銀は意味ありげに顔をあわせた。
金は子供の足首から手をはなした。
子供は再度逃げようとするが不意の沈黙に手を止めた。
「…行かねぇの?」
『行ってもいいの?』
「良くないに決まってるだろ」
『……』
「進むか,立ち止まるか。」
「それは俺達が決める事じゃない。」
突然の反応に子供は困り果てていた。
別に死体のもとに行きたいわけじゃない。
それに戻っても何か策があるわけでもなかった。
ただ危険から逃れたいだけだった。
するといきなり,遠い向こうに霞んで見えていた記憶が蘇った。
きっと父親である,男の言葉。
『僕は…』
うつ向きながら子供の言葉は濁る。
こんな言葉を信じていいのか。
こんな男の…言葉を
決心をつけた子供は行った。
『僕は進むよ…。着いていくよ…』
それを聞いた金と銀は満足そうに笑った。
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