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∞ ∞ ∞
翌日、時由と吉平は慣れぬ廊下を渡っていた。
「失礼します」
朗々と時由が声を上げる。
「安倍晴明(あべのせいめい)の遣いで参りました。藤原康則殿にお目通りをお願いします」
そんな嘘をよくもまあ堂々と吐けるものだと感心しながら、吉平も頭を下げる。
シャラリ、と衣ずれの音がして、前に人が立った。
「晴明殿の、ということは陰陽寮の方ですね」
どこかで、聞き覚えのある声が言う。
「私が藤原康則です。用件を伺いましょう」
そこにいたのはにこやかな少年の姿。昨夜の少年と同一人物。
吉平の横で、時由が息を小さく飲んだ。
「できれば内密に、とのこと。お人払いを」
時由が言うと、その男は快く部屋を移す旨を伝え、近くの役人に手配させる。
∞ ∞ ∞
「さて、用件とはいかがなものでしょう」
別の部屋に移ったそこで、康則はさっそく言った。
時由は、吉平と一度目を合わせると、ゆっくりと口を開く。
「昨夜、朱雀大路に足をお運びになりましたね?」
その問いに、康則は笑みを作った。
「逆にお尋ねしましょう。どうしてあなたたちは、昨夜あんなところにいたのですか?」
その言葉に、時由はバッと立ち上がろうとし、
「っ!?」
金縛りにあったように、動かない体に気付く。
「貴様っ…何者だっ!」
苦々しげに時由が言葉を絞り出す。
康則は、スッと立ち上がるとにっこりと笑んだ。
「藤原康則、ですよ。言ったでしょう?」
時由はぎりっと歯を鳴らす。
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