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吉平は静かに考えた。
これは結界だ。おそらく部屋の周囲に要となるものがあるはずである。
時由を抑えるほど強力であるが、要の数は多くて九つ。それを一つでも崩せば解放されるはずだ。
しかし問題は要が何か、だ。
人が怪しまぬのだから、地中にあるか室内にあるか。
そこまで考え、吉平はふと眼を閉じた。
心を無に―――。
心の映像内に浮かぶのは、五本の光の線。それが五方星を形作っている。
部屋の内には角がいるが、おそらく結界のせいで何もできないのだろう。
要は、距離を見たところおそらく部屋の外。
ということは地中と考えていいだろう。
「白虎の方角に一つ。おそらく地中」
相変わらずヘラっとした笑みを乗せ吉平が言うと、時由はにっと笑い、一瞬動揺した康則に言う。
「今日のことを、おまえは後悔する」
「ほう。陰陽師の予言ですか?」
「陰陽師の予告だよ。俺は必ずお前を後悔させる」
「こんな状況でよくそんなことが言えますね」
「こんな状況を打開するのが陰陽師だ!」
「戯言を」
「斗(とかきぼし)、《壊せ》!」
低い地鳴り。
地中に身を置く時由の式の一つ、斗の力。
姿は蛇に似て、大きさを自由に変化させることができる斗は、強力な破壊力を持つ。問題は―――、破壊しすぎること。
足もとがおぼつかなく崩れる感覚。
「時由…斗を使役するときは目的語を言わないと……」
「忘れてたんだ!角ー!《運べ》ーっ!」
床が崩れる直前、角によって舞いあげられた時由と吉平には、康則の心配、ましてや振り返り様子を見る余裕すらなかったという。
この日、原因不明の大内裏一部崩壊により、様々な官吏が朝廷内を奔走したことは、言うまでもない。
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