一章

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吉平は静かに考えた。 これは結界だ。おそらく部屋の周囲に要となるものがあるはずである。 時由を抑えるほど強力であるが、要の数は多くて九つ。それを一つでも崩せば解放されるはずだ。 しかし問題は要が何か、だ。 人が怪しまぬのだから、地中にあるか室内にあるか。 そこまで考え、吉平はふと眼を閉じた。 心を無に―――。 心の映像内に浮かぶのは、五本の光の線。それが五方星を形作っている。 部屋の内には角がいるが、おそらく結界のせいで何もできないのだろう。 要は、距離を見たところおそらく部屋の外。 ということは地中と考えていいだろう。 「白虎の方角に一つ。おそらく地中」 相変わらずヘラっとした笑みを乗せ吉平が言うと、時由はにっと笑い、一瞬動揺した康則に言う。 「今日のことを、おまえは後悔する」 「ほう。陰陽師の予言ですか?」 「陰陽師の予告だよ。俺は必ずお前を後悔させる」 「こんな状況でよくそんなことが言えますね」 「こんな状況を打開するのが陰陽師だ!」 「戯言を」 「斗(とかきぼし)、《壊せ》!」 低い地鳴り。 地中に身を置く時由の式の一つ、斗の力。 姿は蛇に似て、大きさを自由に変化させることができる斗は、強力な破壊力を持つ。問題は―――、破壊しすぎること。 足もとがおぼつかなく崩れる感覚。 「時由…斗を使役するときは目的語を言わないと……」 「忘れてたんだ!角ー!《運べ》ーっ!」 床が崩れる直前、角によって舞いあげられた時由と吉平には、康則の心配、ましてや振り返り様子を見る余裕すらなかったという。 この日、原因不明の大内裏一部崩壊により、様々な官吏が朝廷内を奔走したことは、言うまでもない。  
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