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∞ ∞ ∞
「時由殿、吉平殿」
破壊された大内裏の修復に、武官文官関係なく当たっているころ。
事件当事者である(もっともその事実は知られていないのだが)時由と吉平は、下っ端書生ということで、作業からは外され日ごろの仕事に充てられていた。
そんな中、声をかけられた二人は、いよいよ犯人とばれたのかと手を止める。
「その一冊が終われば今日の分は終わりです」
「あ…はい、ありがとうございます」
笑みを浮かべ、時由は礼を言う。そして、安堵に溜息をつくと、再び筆に墨を付けた。
吉平は書写の手を進めつつ、そういえばとふと思い出したことを言葉にする。
「神が来る…って言ってたんだよね」
「…は?」
唐突な言葉に、時由は書きかけた文字の手をとめた。
一方吉平は、さほど気にも止めない様子で手を進め続ける。
「前に康則と会った夜さ、死霊にあったでしょ。あの死霊が言ったんだね。神が来る、って」
一時の沈黙。
「はぁ!?」
時由は吉平の言葉を理解するや否や、思わず声を上げる。
同じ部屋にいた書生が不審そうに二人を見やった。
それに気づくと声をひそめ、尋ねる。
「それって、“愚り神(おりがみ)”のことか?」
「多分、ね」
淡々と手を進めつつ、吉平は時由に同意する。
「なんでそんな大事なことを……」
「忘れてたんだよ、康則殿のことで」
カタン、と吉平は筆を置くと、何枚もの書き終えた紙をトントンと机でそろえ、紐でとじる。
「父上に話してみようと思う」
「それは…いいと思うが……」
「うん。だからさ、早く仕事終わらせてね」
「だっ……誰のせいでっ」
すっかり支度を終えた吉平が、ヘラっといつもの調子で笑って言うと、時由は筆を投げつけた。
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