一章

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  ∞  ∞  ∞ 「時由殿、吉平殿」 破壊された大内裏の修復に、武官文官関係なく当たっているころ。 事件当事者である(もっともその事実は知られていないのだが)時由と吉平は、下っ端書生ということで、作業からは外され日ごろの仕事に充てられていた。 そんな中、声をかけられた二人は、いよいよ犯人とばれたのかと手を止める。 「その一冊が終われば今日の分は終わりです」 「あ…はい、ありがとうございます」 笑みを浮かべ、時由は礼を言う。そして、安堵に溜息をつくと、再び筆に墨を付けた。 吉平は書写の手を進めつつ、そういえばとふと思い出したことを言葉にする。 「神が来る…って言ってたんだよね」 「…は?」 唐突な言葉に、時由は書きかけた文字の手をとめた。 一方吉平は、さほど気にも止めない様子で手を進め続ける。 「前に康則と会った夜さ、死霊にあったでしょ。あの死霊が言ったんだね。神が来る、って」 一時の沈黙。 「はぁ!?」 時由は吉平の言葉を理解するや否や、思わず声を上げる。 同じ部屋にいた書生が不審そうに二人を見やった。 それに気づくと声をひそめ、尋ねる。 「それって、“愚り神(おりがみ)”のことか?」 「多分、ね」 淡々と手を進めつつ、吉平は時由に同意する。 「なんでそんな大事なことを……」 「忘れてたんだよ、康則殿のことで」 カタン、と吉平は筆を置くと、何枚もの書き終えた紙をトントンと机でそろえ、紐でとじる。 「父上に話してみようと思う」 「それは…いいと思うが……」 「うん。だからさ、早く仕事終わらせてね」 「だっ……誰のせいでっ」 すっかり支度を終えた吉平が、ヘラっといつもの調子で笑って言うと、時由は筆を投げつけた。  
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