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陰陽師には、その能力や力量に個人差がある。
その中でも最も少なく貴重な能力は、神祓いの能力だ。
これは公には知られておらず、一部の人間のみが内密にしている能力である。
神祓い、といっても、神を調伏したりするわけではない。
否、これでは少し語弊があるだろう。
正確には、神を調伏することは人間にはできない。それは人の身に余る所業であるからだ。
では神祓いとは何か。
簡単に言うならば、神を閉じ込めること。
イメージとしては、神を眠らせ、目に見えない空間に錠をかけてしまうようなものだ。神の眠りがいつまで続くか、錠が錆びて朽ちないか、不安定な状態。
封印ではなく、それが閉じ込めるということ。
それを行うことができる魂さえも、一つの世に一つと言われている。
その魂を持った者を、人々は畏敬の念を込め“神祓師(しんぎし)”と呼び、その行為を、檻に神を閉じ込めるという意で“檻神(おりがみ)”と呼ぶ。
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「神が、愚りましたか」
昨晩と同じように、時由と吉平とに向かい合って座していた晴明は、険しい表情をしている。
愚(お)りる。
それは神が人へ仇なすものに下ること。愚り神に下ること。
「晴明、」
沈黙した晴明に、時由は言う。
紙燭が揺らめき、影を作った。
一呼吸おいて、時由は口を開く。
「貴船の龍神は何をしているのだ」
晴明はその言葉に、眉をひそめた。
“貴船の龍神”とは、京の離れにある貴船神社の祭神である闇龍神(くらおかみのかみ)と高龍神(たかおかみのかみ)のことである。
それは京の守り神だ。
「時、口を慎みなさい」
「しかし、」
「時」
諌めるその口調に、時由はぐっと口をつぐむ。
晴明は表情を和らげて言った。
「自然の調和を乱しているのは、人です」
「でも…っ!こんなに愚り神が京に来るなんて…っ!」
穏やかな口調の晴明に対し、時由は声を荒げる。
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