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愚り神は神であるが故に、強大な力を持つ。
それが人に仇なすのだから、その脅威は並大抵ではない。
職業上、否、能力上、その力を知っている時由は、ドンっと床を叩く。
「また人を殺すというのか!」
同じくその力を知っている吉平は、時由の言葉にフイっと視線をそらす。
時由と吉平が、そして晴明が、愚り神に初めて会ったのは六年前のことになる。
神が愚りることなど、百年に一度あるかないかといったところ。
それ故、誰も再び愚り神と対峙することになるとは思っていなかったに違いない。
「……悪かった」
しばらくの沈黙ののち、時由はスッと立ち上がると、謝罪を言い残し、部屋を退室した。
「時由!」
吉平はそのあとを慌てて追う。
二人が去った後、晴明は自嘲気味に笑んだ。
自分が役に立たないことをよく知っていたから。
神祓いができるのは、時由と吉平の二人のみ。
危険に巻き込まれるのは、二人だけなのだ。
幼いころ、時由を、その才故に日常から引きずり出したのは自分なのに、手を貸してやることさえもできない。
いくら学んでも、無いものは手に入らないと。
そうとは知っていても―――。
「望んでしまうのは…愚かな行為なのでしょうか」
誰に言うでもなく発したその呟きに、今まで静かに成り行きを見守っていた六合が返し言う。
「詭弁…ですわね」
六合は艶やかに笑んだ。
「誰のせいだと思ってますの?」
その言葉に、晴明は返事を返さず空を見上げる。
空は昏く、澄み渡り。
破軍の星の輝きが、色を増した。
第一章 完
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