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∞ ∞ ∞
「で、解(ほど)いた内容は?」
時由の質問に、吉平は驚いたように目を見開く。
それも無理もない。
昨夜邸に帰ったとたん褥に倒れこみ、今日は昼過ぎ、やっと起床したと思ったら、第一声がそれだったのだから。
ちなみに吉平はというと、朝のうちに二人分の物忌の届け出を出してしまっているし、晴明はすでに参内してしまっている。
「吉平」
名を呼ばれ、吉平は、ああ、と相槌を打つと、昨夜のことを思い出す。
「人の手、が見えて…それから一瞬真っ暗に……何してるの、時由」
吉平の話を聞きながら、止め紐を解き、直衣を脱ぎ始めた時由を、吉平は驚いた様子で見る。
「昨日砂で汚れたが、湯浴みせずに寝ただろう。行水でもしようと思っただけだ。後ろを向いて話を続けろ」
その言葉に、吉平はぎょっとする。
「時由、君、仮にも十六の女の子だろ!貴族のやんごとなき姫君なら対面も御簾ごしだっていうのに、痛っ!」
コツン、と肘で殴られ、吉平は言葉を止め、涙をうっすら浮かべつつ、うらめしそうに時由を見上げた。
そう。時由は正真正銘女である。
訳あって男と名乗っているが。
「黙れ」
「……わかったよ。玄武に見つかっても知らないからね」
「うむ。あいつは時折口うるさい親のようになるからな」
「手のかかる子供がいるからだよ」
「吉平」
「はいはい。えっと、真っ暗になってそれから……、」
くるりと背を向け、吉平は話つづける。
衣ずれの音が止み、水の音に変わった。
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