二章

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  ∞  ∞  ∞ 「で、解(ほど)いた内容は?」 時由の質問に、吉平は驚いたように目を見開く。 それも無理もない。 昨夜邸に帰ったとたん褥に倒れこみ、今日は昼過ぎ、やっと起床したと思ったら、第一声がそれだったのだから。 ちなみに吉平はというと、朝のうちに二人分の物忌の届け出を出してしまっているし、晴明はすでに参内してしまっている。 「吉平」 名を呼ばれ、吉平は、ああ、と相槌を打つと、昨夜のことを思い出す。 「人の手、が見えて…それから一瞬真っ暗に……何してるの、時由」 吉平の話を聞きながら、止め紐を解き、直衣を脱ぎ始めた時由を、吉平は驚いた様子で見る。 「昨日砂で汚れたが、湯浴みせずに寝ただろう。行水でもしようと思っただけだ。後ろを向いて話を続けろ」 その言葉に、吉平はぎょっとする。 「時由、君、仮にも十六の女の子だろ!貴族のやんごとなき姫君なら対面も御簾ごしだっていうのに、痛っ!」 コツン、と肘で殴られ、吉平は言葉を止め、涙をうっすら浮かべつつ、うらめしそうに時由を見上げた。 そう。時由は正真正銘女である。 訳あって男と名乗っているが。 「黙れ」 「……わかったよ。玄武に見つかっても知らないからね」 「うむ。あいつは時折口うるさい親のようになるからな」 「手のかかる子供がいるからだよ」 「吉平」 「はいはい。えっと、真っ暗になってそれから……、」 くるりと背を向け、吉平は話つづける。 衣ずれの音が止み、水の音に変わった。  
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