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藤原康則。
宮中では今、噂に高い人物だ。
「康則殿、って言えば、気品高く人当たりの良い、才気溢れるお方……って噂だよね」
さらりと言った吉平に、時由は驚きに目を見張った。
「知り合いか?」
「君本当に出仕してる?」
あんまりと言えばあんまりな時由のセリフに、吉平はあきれていった。
「……あー…それは置いておいて、とてもそんな善人には見えなかったが……」
吉平は、目を泳がせ、話をすり替える時由に、苦笑を返しつつ頷いた。
「うん。俺も本人を見たことがあるわけじゃないからわからないけど……。可能性としては、噂が違えているか……」
「偽者か、だな。しかしそんなことをして何になる?」
もっともな疑問に、時由と吉平は首を捻る。
「怨恨、とか?僕らにわざと“藤原康則”を呪殺させようとした」
「成程……」
考えられない話ではない。
“藤原康則”を恨む人間が、敢えて陰陽師の前で“藤原康則”の名を語り、怒りを買う。
それによって陰陽師が“藤原康則”を呪殺すれば、自分の手を汚さず殺せるわけだ。
有り得ない話ではないが、しかし――、
「だったらそれこそ晴明や賀茂殿相手の方がいいだろ。なぜ名もない俺らなんかを選んだ?」
「あ、そうか。……じゃあ、どういうこと?」
「さあな。……よし、明日本人に会ってみるか」
「へ?」
突拍子もない時由の提案に、吉平は素っ頓狂な声を上げた。
「本人だったらその場でぶちのめしてもいいしな。」
「と、時由!」
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