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急げ――急げ急げ!!
なんで階段がこんなにあるんだ。
エレベーターがないのがかなり恨めしい。
「はぁ……はぁ……っ」
いや、そもそもなんで自分がこんなに急いでいるのかが分からない。
分からないけど
早く行かなきゃいけない気がした。
全くおかしい話だ。
あんなにも他人と関わるのを拒んでいたのに
主治医でさえ、まだ信用しきれてないというのに
(早く……っ)
出会ってまだ日が経っていないあんたが
こんなに気になるなんて
―――バンッ!!
屋上の扉を半ば強引に開く。
雨の激しさは衰えず、槍のように降り注いでいた。
(い……た……)
白い大きな傘をさしながら
彼女は空を仰ぎ、滝のように流れる雨をただ静かに見つめていた。
それはとても不思議な光景で
まるで彼女がいる場所だけ雨が止まっているような感じがした。
もっと不思議なのは
その光景をずっと見ていたいと思った、俺自身のほうだ。
「咲良……?」
ようやくこちらに気づいた彼女が歩み寄ってくる。
いつの間に入り口から離れていたのか、雨に打たれてずぶ濡れになった俺をその傘に入れてくれた。
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