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「あ……」
走って来たせいか妙に顔が熱い。
彼女の顔が近くにあって上手く言葉が出てこない。
「……来ると思った」
"笑って"とは言い難いかもしれない。
だが最初に会った時の彼女よりも、今の彼女の表情はだいぶ柔らかかった。
「待つなよ……来るか分からないのに」
ようやく言葉が出たのに、それは冷たい憎まれ口だった。
だがこれ以上何て言ったらいいのか分からない。
だって何も知らないのだ。
少なくても俺は。
彼女が何者なのか
何がしたくてこうして待っているのか
名前すら、知らない。
「もう少し待って……雨が止むから」
言い淀んだ俺に彼女は気分を害した様子もなく、いつもの静かな表情に戻ってそう言った。
「止まないよ……こんな雨止むわけ」
「もう少し。あと少しで止むの」
確信したような強い言葉。
それを信じて疑っていないみたいだ。
(まさか……)
雨足は以前のまま。
こんなのがもう少しで止むわけがない。
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