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「咲良にこれ……見せたかった」
"だから待っていた"
そう彼女は言う。
「来てくれて……良かった……」
「………」
これを見せるために
ただそれだけのために待っていたのか?
初めて会ったあの日から、もう何日も過ぎるのに
諦めないで、ここに居たのか。
「あんた……やっぱり馬鹿だよ」
俺なんかのために、どうしてここまでやるんだよ。
「咲良に見せたかったから……」
彼女はそれしか言わない。
少し困ったように言葉を探している。
冷静そうな彼女の戸惑った様子が変で、ふっと笑いが込み上げてきた。
「分かった。もう分かったから」
まだ疑問は尽きないけど、それはおいおい聞いていけばいいだろう。
少なくとも、彼女は俺にとってもう関係のない他人じゃない。
俺はたぶん初めて会った日から既に関わってしまっていたんだ。
この不思議で、馬鹿みたいに真っ直ぐな彼女に。
「川崎咲良……俺の名前。あんたは?」
「私……私は」
差し出された手を、俺は少しためらいながら握る。
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