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「……変わりませんね。本当に」
あなたはいつだって、すぐ人の気持ちを見透かしてしまう。
痛みや、苦しみでさえも。
そして、当たり前のように手を伸ばすんだ。
「また来てくれるんでしょ?みんなに楽しみにしとくよう言っとくよ」
ひらひらと手を降りながら、歩いて去っていく。
何とも飄々として、どこまでも掴めない人だ。
「……ありがとうございました」
去った先生の後ろ姿に小さく呟いて、私も腰を浮かす。
「……よし」
行こう。
自分のするべきことのために。
伝えよう。
ちゃんと言葉にして。
例え傷付けてしまっても、譲れないこの想いを消え去ることはできないから。
不思議な程に軽くなった足取りで、私はある場所を目指して歩き出した。
「すごいねぇ……」
出口に歩いていく彼女の姿を、佐倉は二階から見つめる。
(君はまだ分かってないよ……)
彼――咲良君はね?
壊しても、また作りたいと思ってたんだ。
葉月ちゃんとなら何度でも、二人の場所を作りたいと願ってたんだよ。
「楽しみだなぁ……」
もうすぐ、もうすぐ全てが始まる。
やっと動き出すんだ。
君達の――……
嬉しい気持ちをそっと隠し、佐倉は踵を返して再び仕事に戻った。
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