梅雨~距離~

9/24
前へ
/278ページ
次へ
いつもへらへらしているが、たまに妙に的を射た発言をする。 俺の主治医として結構長く付き合っているが、未だに底が見えない。 「葉月ちゃん今日も来ないんだねぇ~寂しいねぇ?」 「……喋んなって言っただろ」 せっかくの晴れの日なのに。 なんでしょっぱなからこいつの顔を見なきゃいけないんだ。 「はい。膨れない、いじけない、苛つかなぁい。今日は咲良君にお届け物があります」 「……郵便だろ。早く渡せよ」 この病院は、都内から離れた郊外の森に建っている。 そのためここに来る郵便物は毎週水曜日にしか届かなく、小さな病院なので医師達が順番に患者達に配っていた。 「珍しいよねぇ~咲良君に郵便。はい」 言い方は気にくわないが、確かに珍しい。 ここに来て、数えるくらいしか俺には送られてこないのに。 「それ一通しかなかったよ」 そう言って渡されたのは、今の季節にふさわしい紫陽花の挿し絵の封筒。 裏を返し宛名を確認する。 「………っ!!」 一瞬 自分の目を疑った。 まさか、彼から手紙が来るなんて 「咲良君?」 いつもと違う様子に気づいたのだろう。 佐倉は心配そうに声をかける。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加