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「悪い……ありがとな」
いつもなら絶対に言わない礼をすんなりと咲良が口にしたので、佐倉は怪訝な表情で見つめる。
「用はこれだけならもういいだろ。早く仕事戻れよ」
硬い声で封筒を凝視したまま、こちらを一切向かない。
何かあると感じ尋ねようとした。
コン、コン。
「佐倉先生。ちょっといいですか」
だがそれは、扉ごしの看護師の声で遮られる。
「……じゃあまたね~咲良君」
咲良は返事もせず静かに右手だけ上げた。
やはりこちらを見ない。
いつもと変わらないでいこうと思い、そのまま病室を後にした。
「すいません。あの……佐倉先生?」
眉間に深いしわを刻んで出てきた佐倉に、看護師は驚き見つめる。
「……いや。行こうか」
一抹の不安を消せないまま
佐倉は自分の仕事に取り掛かった。
「………」
静かになった病室で、咲良は激しく脈打つ心臓をどうにかして鎮めようとしていた。
(うるさい……)
咲良の意思とは逆に鳴り止まない鼓動。
額からは冷や汗がにじみ、心なしか呼吸も苦しくなってきた。
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