梅雨~距離~

11/24
前へ
/278ページ
次へ
馬鹿じゃねぇの。 くだらない。 こんなの――こんなことくらいで 目の前にあるのは一通の封筒。 彼からの、ただの手紙。 ただそれだけのものなのに、自分が異常に反応している。 「こんなの……っ」 封筒に力を込め、破ろうとする。 いらない。 こんなもの。 なくなってしまえばいい。 「………っ!!」 そうしたいのに そう強く思っているのに 自分の右手はこれ以上動こうとはしない。 「くそ……」 破れもしなければ、捨てる勇気もない。 恐れか―――それとも執着か。 結局俺はあの頃にずっと縛られている。 『咲良』 葉月の声が、どこからか聞こえた気がした。 「葉月……?」 急いで顔を上げ辺りを見回すが、病室には誰もいない。 「何やってんだろうな……」 何を期待してるんだ、俺は。 まだ信じきれていない他人を 大切なことは何一つ教えない他人を、無意識に探しているなんて。 「本当に……」 それでも そんな他人の葉月でもいてくれたほうが良かった。 何もしなくてもいい。 ただいつものように隣に座ってくれていたらどんなにいいだろう。
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加