梅雨~距離~

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階段を登る足がひどく重い。 やっと着いた時には、軽く息があがっていた。 ゆっくりと扉に手をかけ、ドアノブを回す。 開いたその先には 「わ……」 どこまでも続く、青い空が飛び込んできた。 (ここにもいない……か) ここに居るはずのない彼女をまたも探してしまう。 屋上の中央で横になり、吹く風の心地よさに目を閉じる。 「気持ちい―…」 ここでいつも一人の時間を過ごしていた。 移り行く雲を眺めながら、何も考えず、何も感じようともせず ただ流れていく時間に身を任していた。 でもあの日 『見つけた……咲良』 いつまでも続くと思っていたこの日常に、彼女は突然飛び込んできた。 飾らず、真っ直ぐに 素直に、目を背けず 彼女は静かに俺を見ていた。 「……もう来ないくせに」 いつも本を真剣に読んでいる葉月の顔が浮かぶ。 彼女は本ばかり読んで、特に二人の会話が弾むわけでもなく 時には話すこともなく、沈黙すら流れる。
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