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『やっとこっちに来てくれたね~待ちくたびれたよ』
「な……に言って」
『いっつもいっつも目背けてさぁ。俺は何度も呼んでんのに』
ドクン――ドクンッ
心臓があり得ないくらい脈打つ。
じりじりと近付いて来る「俺」に、俺は無意識に後退する。
『ここいいだろ?だぁれも来ないんだ。俺とお前の二人以外』
大きく手を広げ、高らかに笑う。
『うるさく言う奴もいない、強制する奴も来ない。苦しまないし、傷つけられもしない……最高の場所だろ?』
「うるさい……っ」
聞くな、聞くな
耳を塞ぐが「俺」の声はすぐに届いてしまう。
『お前と俺だけの世界。二人だけの空間。ここなら、他人なんて必要ない』
黙れ
黙れ
黙れ!!
『ずっとここに居ようよ。ずっと、ずっと…』
いつの間に目の前に来たのだろう。
もう一人の俺は、優しく俺に笑いかける。
『もう傷付きたくないだろ……咲良?』
怖い――っ!!
頭の中で警報が鳴っている。
聞いちゃいけない。
分かっているのに、その言葉は心地よく響く。
『咲良……俺と同じ……』
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