梅雨~距離~

19/24
前へ
/278ページ
次へ
何だろう。 すごく右手が暖かい。 この体温、なんだか安心する。 「………っ」 その暖かさが何か確かめたくて、俺は頑張って目を開けた。 起きてすぐに見えたのは 昼間の青空とは違う、茜色をした夕焼け空。 「咲良……やっと起きた」 聞き覚えのあるマイペースな口調。 横を向けば、葉月が隣に座っていた。 「……ずいぶん久しぶりだな」 右手の暖かさは分かった。 葉月が俺の手を握っていたからだ。 右手に向けた俺の視線に葉月も気づいた。 だが、握った手を離そうとしない。 「うなされてたから。だから繋いだの」 照れもしなければ、笑おうともしない。 その葉月の無表情が、なんだか懐かしかった。 「うなされてたか……たぶん、夢のせいだよ」 「怖い夢?」 「どうだろ……少し、怖かったかな」 何もない白い空間。 出会ったもう一人の俺。 発せられた、胸をえぐるような言葉達。 夢だけど――嫌に現実味を帯びていた。 「フィクションの中だけかと思ってたよ。まさか本当に、もう一人の自分に会えるなんて思ってもいなかった」
/278ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1547人が本棚に入れています
本棚に追加