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何だろう。
すごく右手が暖かい。
この体温、なんだか安心する。
「………っ」
その暖かさが何か確かめたくて、俺は頑張って目を開けた。
起きてすぐに見えたのは
昼間の青空とは違う、茜色をした夕焼け空。
「咲良……やっと起きた」
聞き覚えのあるマイペースな口調。
横を向けば、葉月が隣に座っていた。
「……ずいぶん久しぶりだな」
右手の暖かさは分かった。
葉月が俺の手を握っていたからだ。
右手に向けた俺の視線に葉月も気づいた。
だが、握った手を離そうとしない。
「うなされてたから。だから繋いだの」
照れもしなければ、笑おうともしない。
その葉月の無表情が、なんだか懐かしかった。
「うなされてたか……たぶん、夢のせいだよ」
「怖い夢?」
「どうだろ……少し、怖かったかな」
何もない白い空間。
出会ったもう一人の俺。
発せられた、胸をえぐるような言葉達。
夢だけど――嫌に現実味を帯びていた。
「フィクションの中だけかと思ってたよ。まさか本当に、もう一人の自分に会えるなんて思ってもいなかった」
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