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「咲良は行きたくなさそうだったのに悪いなって……」
「まぁ、確かに行きたくなかったけど」
やっぱり、という顔をして俺を下から睨む。
「来て良かったよ。本当に」
蛍が舞う夏の夜に、呼応する子供達の声。
空が輝き、何もかもが楽しく見えて
「この景色……見れて良かった」
もう絶対に見れるなんて思わなかった。
「葉月と見れて良かった」
横にいたのが、葉月で良かった。
「だから……ありがとう」
彼女の頭が横に動く。
「………ぅ」
小さな、小さな声だけど
葉月の精一杯の気持ちが俺の耳に届く。
「咲良!!葉月!!こっちに来いよ~」
大気の元気にはしゃぐ声が呼ぶ。
「……今行くよ!!」
今度は俺が葉月に手を差し出す。
繋いだ手をしっかりと握って、蛍の舞う中を進んでいく。
「咲良ぁ!!」
涼風の中感じたのは、葉月と繋いだ手の体温。
まだまだ夏は始まったばかり。
これから何が起こるのか楽しみだが、隣にはいつも葉月がいればいい。
そう空に浮かぶ真っ白な月を、穏やかな気持ちで見上げた。
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