Episode:3

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    リビングに行くと 何かを一生懸命に作っている千秋と 席につきながらそれを見守るみんなが いた。   なんか家族みたい。   ほのぼのとした雰囲気の中で ふと思い出した。   そういえば… 睦月に謝ってなかった。   そーっと睦月の隣に座って どう話を切り出すか考えていると 向こうが先に口を開いた。   「謝んなくていいよ。俺も取り乱しただけだし」   「え…でも!」   「俺さ…勘違いしてたんだよね。秋羅がただの日和見のお嬢さまで何の苦労もしてない子だと思ってた」   どんな勘違いよ!? とっさに出そうになった言葉を飲み込んで平静を装う。   「苦労のない子なんていない」   みんなどこかで苦労してる。 その大きさは違うかもしれない。 でも、大きさは関係ないと思う。   「俺が一番苦しかった時…一番嬉しかった言葉。『何があってもお前はお前だ』千秋が言ってくれた」   ふわりと睦月が笑った。 今まで見た中で一番素直な笑顔かも。   それにしても…   「千秋が言うんだ…そんなこと」   「はは!千秋は優しいよ?素直じゃないだけで…優しすぎるくらいにね」   確かに… なんだかんだで相談受けてくれるけど 優しい? あのサド王子が!!?   「まぁ俺が言いたいのはね、秋羅にもツラいこととかあるだろうけど!秋羅は秋羅だから!何があってもね?」   イタズラに笑いながら睦月が 私の頭を叩いた。   さっきの夢で不安になっていた心が 安らぐ。私は私。 あの夢がどんなことを意味してるかはわからないけど…。   「ん…ありがとう」   そう言った時、ちょうど千秋が料理を持って出てきた。   「お待たせー!!!」   ドンっと机に置かれた鍋を見て固まる。   「何…これ?」   「見てわかんない?鍋」   いやいやいや………。 まず、ダシの色が赤っておかしいよね? キムチとかの匂いもないのに赤って…。   「郁…食べて」   「りょーかいっ!」   食べちゃダメでしょ!!! 止めようとしたけど遅かった。   「んっ!!?」   険しい顔をする郁。 やっぱり食べちゃダメだったって!   「うまい!」   「え?」   なら大丈夫。 とみんなが少しずつ箸を進める。   こうしてちょっとドタバタな夜は過ぎていった。
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