彼氏と彼女

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「ねぇ…、良かったの?」 歩きながら、私は聞いた。 「何が?」 「あの子たちのお誘い」 航多は、足を止めた。 「いいんだよ。それよりさ…ハイ」 そう言って、航多は手を差し出した。 「?」 「手、つなごう」 「えっ…」 突然のことに、体が固まった。 付き合ってるんだから当たり前なんだろうけど、 …恥ずかしい…。 「あーもう!なんでお前、急にモジモジするかなぁ!」 航多は、私の手を掴むとそのまま指を絡めた。 「こ…航多…」 「嫌だったら嫌って言えよ」 「嫌…じゃない」 「よし!」 ニコッと笑うと、歩きだした。 小さい頃、よく手をつないでいた記憶はあるけど、今の航多の手はあの頃よりも大きくて温かい。 さっきまで緊張していたのに、少しホッとしている自分がいた。 私、航多と付き合ってるんだなぁ…。 なんか妙に実感。 マンションまで、ずっと手を繋いでいた。 初めは緊張したけど、家に着く頃には慣れてきて、いつもみたいに会話できるようになってた。 「美郷…。俺、美郷と付き合えてほんと嬉しい。これから、よろしくな」 航多はマンションの前で、突然そう言った。 「何、突然改まってー…」 私は、笑って済まそうと思ったけど、航多の柔らかい眼差しがそうさせてくれなかった。 見つめられてドキドキする。 だけど、今なら私ちゃんと「好き」って伝えられそうな… 「航多…。あの、私…もね、航多のこと好き―…っ!!」 「好き」と言い終わるか終わらないかのうちに、航多の唇が触れた。 キス――と、わかった途端、急に顔が熱くなる。 「顔真っ赤…」 航多がクスクスと笑う。 「だ…誰のせいだと!」 航多は黙って私の頭をくしゃくしゃと撫でると「また明日ね」と一言だけ言って、マンションの中に入っていった。 私は…頭と口を両方押さえたまま、熱と動悸がおさまるのを待った。 ちょっとパニくってもいたと思う。 だから、私を見つめる視線がすぐ近くにあったことにも、その時は気づけなかったんだ…。
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