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「あっ…」
航多ごと体を押され、転びそうになり、思わず航多の袖を掴んだ。
「美郷、こっち」
航多が小さく囁いて、私をぐいっと引き寄せた。
半ば、航多に抱き締められる形で体が密着する。
心臓がひときわ大きく鳴りだす。
こんなにくっついてたら、航多にも伝わるんじゃ…
だけど…
「航多…もドキドキいってる…?」
口に出すと、航多の腕にぎゅっと力がこもった。
「うるせーよ!黙ってつかまってろ」
照れ隠しなのが伝わって、なんだかかわいいと思ってしまった。
そのあと、私たちはずっと無言のまま電車に揺られていた。
駅に着くと、自然と手を繋いで歩きだす。
その時、後ろから女の子の話し声が聞こえた。
「ねーねー、彼すごいかっこ良くない?」
「あ、アタシも思った!」
「…一緒にいる子。彼女かな?」
「んー…手、繋いでるしねぇ…」
「だけどさ…」
「うん…」
まただ…。
最後の方は言葉を濁していたけど、言わんとしていることはわかってしまう。
『なんか、あんまり釣り合ってないよね』
満員のホーム。
聞きたくなくても、聞こえてしまった。
他愛無い会話。
悪気があるわけじゃないのはわかる。
だけど、すごく悲しくなった。
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