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付き合っていない時もそういう風な目で見られることはあった。
だけど、彼女になってから言われるのとでは全然違う。
『彼女じゃないし』って自分をあいまいに誤魔化すことができない分、本当に自分を否定された気になってしまう。
なんで、私キレイじゃないんだろう。
『お似合いのカップルだ』って言われたい。
航多は、こんな私嫌じゃないの?
いろんな感情がぐるぐる身体をまわって、顔をあげていられない。
誰も私を見ないで!
私は、もう1度航多の手をほどいた。
少し先を歩いていた航多が振りかえる。
私は精一杯笑顔を作って嘘をついた。
「…まだ付き合い始めたばっかりで、こんなたくさん人がいるとこで手繋ぐの恥ずかしくて…」
自分が惨めにならないための嘘。
航多の彼女なのに、周りに彼女じゃないと思わせるための嘘。
航多を傷つける嘘。
私、嫌な女だ…。
航多は黙って私を見つめていたけど、ふぅと一息吐くと優しく微笑んだ。
「何をいろいろ考えてんのか知らねーけどさ…」
「ごめん…」
「あんまり抱え込むなよー。俺、お前に無理させたいわけじゃないし」
そこで、気づいた。
「何で私がいろいろ考えてるってわかるの?」
航多は、自分のおでこを指で示した。
「眉間にシワ。考えごとしてる時のお前の癖」
16年間の付き合いをナメんなよって笑って言った。
何も聞かない航多。
ごめんね、と心の中で呟いた。
泣きそうだ。
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