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閉まりかけたドアをこじ開けて、航多が乗ってきたのだ。
「ちょっと航多?!」
航多は、私の腕を掴むと壁に押しあてる。
「今日、キスしてないよね?」
いや、してないけど…。
エレベーターこじ開けてまでする?!
掴まれた腕が痛い…。
「航多…腕痛いよ…」
航多は腕の力を弱めない。
「キスしたい…」
もう…。
航多の顔が近づき、私は目を閉じた。
唇に航多の感触をわずかに感じる。
「?!」
いつもなら、そのまま離れる唇がきつく押しあてられる。
「航っ…」
名前を呼ぼうとして、口を開くとそこに柔らかい感触が入り込むのを感じた。
「んっ…」
身体が熱くて頭がボーッとしてきた。
胸がぎゅうっとなる。
航多…。
息がだんだん苦しくなってきた時、エレベーターのドアが開いた。
いつの間にか5階に着いていたみたい。
反射的に身体を離す航多。
私は、口元を押さえて航多を見る。
「…急にごめん。美郷の気持ちが見えなくて、焦ってつい…」
航多はバツが悪そうにうつむいた。
私、航多にそんな風に思わせていたの…?
「俺のこと好きだって言ってくれたことを嘘だとは感じないんだけど…。なんか、時々美郷はどっか冷めてるように思えてさ…」
「航多…」
「俺ばっかり好きなのかと思ったら、ムカつくやら悲しいやらで…。嫌な思いさせたなら謝る…」
「嫌じゃないよ!嫌なんかじゃない。びっくりしただけ…」
航多は、安心したように床に座りこんだ。
「あー…もうっ!!俺、余裕ある奴になりたいのに!!」
そう言って頭を抱える航多を、私はなんだか無性に愛しく感じた。
そんなに私を想ってくれてありがとう。
そんな気持ちをこめて、航多を抱き締めようとした時、
ガタン!
エレベーターが動きだした。
1階で誰かがボタンを押したみたい。
「あ!嘘っ!?」
慌てて「開」ボタンを押すけど、間に合わず。
思わず航多と顔を見合わせて、自分達の間抜けさに吹き出した。
さっきまでのモヤモヤした気持ちが少し軽くなったような気がする。
航多にはそんなつもりはないのかもしれないけど、私は航多の存在に助けられているみたい。
航多の気持ちにちゃんと応えたい。
私はその時、強くそう思った。
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