序幕

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サァー…、サァー… 《ここは…》 サァー…、サァー… 《水の…、音…》 柔らかな風に包まれた感覚に、 僅かに聞こえる、水の流れる音… まどろむ意識の中、ゆっくりと瞼を持ち上げる。 霧のかかったような視界に映るのは… 《…水面に浮かぶ…》 呟いた言葉と共に視界は、パッと暗くなり意識も途絶えた… +++++++++++ 再び目を開けた時に写り込んだのは見慣れた白い天井。 ゆるゆると布団から上体を起こし、カーテンの隙間から差し込む朝日に顔を向けた。 (また同じ夢…) ここ最近、見続ける不思議な夢。 真っ白い霧の中に自分が居て、水の音に導かれるように目を開け、霧の向こうを見ようとすると覚めてしまう… けれど、初めて夢を見たあの夜から霧の向こうが段々とはっきり見えるようになった。 (水面の上に…家があった…) 家というよりも、前に教科書で見た平安時代の寝殿… (それに、…人が居た、) はっきりとは見えなかったけれど、寝殿の中に人が居た。 自分には背を向けて… 「今日にでも、見えるかな…」 気付かぬ内に零れた呟きは母親の呼び声で掻き消された。
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