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「…俺は、もう小学生じゃないんだよ、父さん!!」
永遠とも思える静寂。
優が現実を受け止められない間に、時間はいつの間にか過ぎていた。
静まり返る桜並木が、優を見つめる。
「日向…あいつ、何なんだ?」
低く苛立ちを込めた優の独り言を聞いたのは、やはり沈黙したままの木々だけだった。
そして、優は走って自分から逃げた息子を怨むように、虚空を睨んで去っていく。
その背中からは、隠しきれぬ怒りが透けて見えた。
一方難を逃れた日向は、自宅の玄関先で乱れた呼吸を整えていた。
ハァ…ハァ…ハァ…
まだ心臓がバクバクしている。
日向の掻き乱された心を示すように、鼓動は落ち着くどころか、激しさを増していた。
日向はとりあえず深呼吸を一つしてドアを開けると、直ぐさま二階の自室に駆け込んで鍵を閉める。
「……よかっ…た。」
そこまでしてやっと、日向は安堵の吐息を漏らした。
下から何やら、自分を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、日向は無視した。
ふかふかのベッドに勢いよく倒れ込めば、ようやくリラックスが出来る。
日向は掛け布団を引っ張り上げると、潜り込んだ。
先程と同じ闇、だけど…違う闇だった。
子守唄のように、優しく自分を包んでくれた。
「…あったかい…。」
日向は眠たげに呟くと、誘われるように夢の中に落ちる。
間もなく聞こえてきた規則正しい寝息が、彼の平穏を知らせていた。
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