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「愛…ごめん、もう行かないとまずいかな…。」
「……えっ?あ、ごめん!
そうだよね…ったく、あいつ、部屋に鍵閉めて何してんだっつの!」
場所は変わって、城崎家のさほど広くないリビング。
こたつの周りを落ち着きなくうろつく愛に、いかにも人の良さそうな男性が、申し訳なさそうに切り出した。
愛はようやくうろうろするのを止め、優しい婚約者に少し恥ずかしげな笑みを浮かべる。
婚約者の木戸雄太は、そんな彼女にクスリと笑みを零した。
「愛、焦りは禁物だよ。
日向君と愛、そして僕の三人の足並みが揃わなくちゃ、家族にはなれないからね。
一歩ずつ前進出来たら、それで良いんだ。」
「……うん、そうだね。
分かったよ、雄太!
…日向には、あたしからちゃんと話しておく。」
愛は本当に嬉しそうに、綺麗な笑顔をする。
後にも先にも、愛がこういう表情をするのは、彼一人だった。
愛の婚約者である木戸雄太は、一言で言えば、かなりの変人だ。
もちろん良い意味でだが、彼は初婚で子連れの女性を迷いもせずに、選んだのだ。
周りからどれだけ反対されても、見た目は優男の雄太の決心は揺らぐことがなかったと言う。
そんな器の大きい雄太に、愛は心底惚れ込み、愛する我が子を任せたいと思ったのだった。
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