一幕 「オカシナ、シニガミ」

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フランの顔がみるみる内に、険しさを帯びる。 そこには先程までの穏やかさは微塵もなかった。 それでも、ナナは自身の言葉を撤回しようとしない。 そんな主人に、フランは思わず怒鳴りそうになるのを必死に堪え、静かに口を開く。 「ナナ…あの仕事は諦めると約束したはずです。 違いますか?」 「わ、分かってる! でも…どうしたって忘れられないの! 独りの時、ずっと考えてた…。」 「ナナ…。貴女はどうして…」 「お願い、フラン…! 助けられる命を諦めたくないの…。」 「ナナ、貴女は死神の役割を間違えています。 …優しい貴女を、私は否定したくない。 ですが、ナナがやろうとしていることは、天使の役割なんです。」 「そう…だけど…。 でも…死神のあたしだからこそ、やれることも」 「それは違います、ナナ! 貴女が無理矢理やってしまうだけです。 だからこそ…こうして、罰を受けているんです。」 「「……………。」」 怒鳴られるよりも、フランの冷静さがかえって怖かったが、ナナは更に言い募った。 両者の間に重苦しい沈黙が流れ、やがて諦めたようにため息を吐いたのはフランの方だった。 「…やれやれ。 貴女は一度こうだと言い始めたら、絶対譲らないんですから…。」 「フラン…ありがとう! いつもごめんね?」 「仕方ありませんね。 …さ、早く行きますよ。 聞き付けられたら、厄介な事になります。」 「うん!そうと決まったら急ごう!」 ナナは再び底ぬけに明るい笑みを零し、フランを置いてさっさと行ってしまう。 その後ろ姿を、フランは何とも言えない表情で見つめると、首を横に振って歩き始めた。 “相変わらず、自分はナナに甘い” と、自身に苦々しい思いを抱きながら。
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