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辺りに生徒はもう居ないに等しい。少し前に女子が一人いるだけだ。
こうして頑張って上っていた俺だったが――坂の半分くらいで気付く。
――間に合わない。余裕で。
「……ま、今後のためって事で。
この坂は十分は掛かる。覚えとこう」
言ってしまえば俺は楽観的な性格だ。遅刻くらいでクヨクヨするような人間じゃない。まぁ、入学式に遅刻するのは本来クヨクヨすべきなんだろうけど。
――ドサッ。
と、そこに突然の物音。どうやら先程の前を歩いていた女子がカバンを落としたらしい。入学式だから大したものは入れてこないと思うのだが、どうやら筆箱が開いていたらしい。必死にかき集めて中へと入れている。
あーあ、可哀想に、必死に走ればまだ間に合ったかもしれないのに。いや、まぁ走ってもいなかったし諦めてたのかも知れないけど。
そんなことを思ってゆっくり歩いていると、そこにどこにでもありそうな一本の黒く光るシャーペンが、俺の足元へと転がってきた。
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