1033人が本棚に入れています
本棚に追加
「えっ?」
それは、俺が言ったのだろう。
頭を上げた視界の中に広がったのは、眉を寄せる少女の顔だった。
「――なに、してるわけ?」
繕った笑顔も思わず引きつる。
この状況下、何故吉田先生の一言だけで歓声が止んだのかを考えるべきだった。
つまり、吉田先生の声で、ではないのだ。
歓声が止んだのは、きっと、有栖川結愛が、いきなり俺の前に立ったからなんだろう。
「あのぉ、お名前、教えていただけませんか?」
「はっ? 姫萩 暁夜(ひめはぎ あきや)だけど……」
姫萩の名字は好きではない。
男なのに姫がつくのだ、なんかカッコ悪いじゃないか。
「姫萩……暁夜……」
俺に聞き返すというわけでもなく、有栖川結愛は呟いた。
その呟きに、若干の切なさと多大な幸福を、感じた気がした。
「暁夜さん。暁夜さん。あぁ、やっと、やっと暁夜さんに」
「は? な、なんだ?」
「私のこと、忘れたんですか?」
「え゛? いや、俺は有栖川さんみたいな美少女は知り合いにいないんだが――」
この瞬間だけ、魅姫の存在を忘れてしまった。
本人はどうとも思わないだろうが、なんとなく罪悪感が募る。
いや、今はそんな場合じゃない。
目前には美少女転校生。
周りの視線は男子の殺気。
デッドエンドを迎えるには要因が揃い過ぎている。
最初のコメントを投稿しよう!