1033人が本棚に入れています
本棚に追加
「朝から人を笑うな魅姫」
「ん、あぁ、すまない」
魅姫は笑いがとれないのか、片目は瞑ったままだった。
こいつ、空咲 魅姫(そらさき みひめ)は俺の幼なじみ。
むしろ、腐れ縁という言葉を用いてもいい。
何分、こいつとは幼稚園から一緒で、何の因果か小、中、そして今に至る高までずっと一緒。
全部同じクラスだった。
今もそれは例外なく、こいつは俺と同じクラスだ。
「ほら、暁夜、頭をこっちに下げろ、手が届き難いじゃないか」
「は?」
言われ、そのまま頭を魅姫に下げる。
ソッと、魅姫の柔らかい手が、俺の頭を撫でた。
「ほら、これで大分マシになったぞ。まさか水で直しに家の中に戻るなんて無粋なことしないよな?」
魅姫は、微笑む、という言葉が絶妙な程合う暖かい笑顔で、こっぱずかしいことをやってのけた。
朝日も大分眩しいが、それよりもこいつの行動に眩しさを覚える。
まぁ、きびすを返すのも、確かに失礼か。
「ったく。近所の目というものがあるだろうが」
俺は玄関のドアを閉め、鍵をかけて、魅姫と一緒に歩き始めた。
「近所の目? 私は別に気にしないぞ?」
「あっそうかい」
「――はは~ん。なるほど。つまり暁夜はご近所様に私とそういう関係と勘違いされたくないというわけか」
「いちいち癪に触るニヤリ笑いをするな」
魅姫は大人びた端正な顔立ちながらも、何故かそれに合わないニヤリ笑いやニシシ笑い等をする。
いや、案外こいつはそっちの方が似合ってるのかもな。
最初のコメントを投稿しよう!