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「癪に触るとはなんだ。私は事実らしきことを言ったまでだぞ。暁夜はそういう風に見られるのは嫌なんだろう?」
「うるさいな…」
「おやぁ? どうしたのかな暁夜君? 恥ずかしいのか?」
ニシシ笑いが俯く俺を覗き込む。
魅姫は可愛い。
いや、可愛いというよりは凜としているの方があってるかな。
一応俺も健全な男子な訳で、魅姫を可愛いと思うことは無いとは言えないのだ。
勘違いされても、嫌とは言えない。
「暁夜は朝に弱いな。普段の暁夜なら皮肉を言ってるぞ」
「俺はそこまで皮肉屋じゃねぇよ」
「いいや、皮肉屋だね。昨日だって――――」
「危ないぞ魅姫」
住宅街と十字路を挟んだ信号のところで、魅姫が赤で渡ろうとした。
まぁ、多少強引だが、車がこちらに近かったので魅姫の腰に腕を回し、こっちに引っ張った。
魅姫の体は軽い。
フワッとこちらに倒れてきてくれた。
「…………! は、離せ!」
「うおっ!?」
俺の胸に顔をうずめた状態の魅姫は、頬を紅潮させながら俺を突き離した。
たたらを踏み、体制を整えた後、信号機の歩行者ボタンを押す。
「い、いちいち引っ張らなくても、あれぐらいは気付いていた!」
「まぁまぁ。安全に越したことはないんだからそう怒るな」
「私はこれでも女なんだからな! 確かに、ガサツなとこもあるけど――」
「ガサツ? なに言ってるんだ? 魅姫は魅姫だろ。違う人を演じる必要なんてないんだからそれが魅姫じゃないか」
「――――ッッ!?」
それっきり、魅姫は黙ってしまった。
なんだか、奮い上げた拳の落としどころに困った、というか、とにかく俯いたまま俺の隣をトコトコと着いてくるだけだった。
俺なんか怒らせるようなこと言ったか?
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