第壱夜

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「だからって、何も殺すことないだろう? あんな構えじゃあ殺られる訳ないんだしよー」 「そうやっていつも酒呑は油断をする。ついこの前にだってそうして殺られかけた」 これではまるでイタチごっこだ。 まあ、確かに言われた通りなのだが…。 茨木の言う事は正しい。 正しすぎて何も言い返せない。 助けてくれと周りを見渡しても、苦笑しか返ってはこなかった。 「聞いてるのか、酒呑?」 「だぁー! 聞いてる聞いてるよ! もう十分聞いたから、さっさと帰ろーぜっ!!」 どう見ても、酒呑が逃げようとしているのは明白だ。 首領が副将から逃げるという図は一見おかしな姿だが、ここではよく見られることだ。 もう苦笑以外出るものがない。 しかし、酒呑が言っている事も正しい。 早く帰らねば、新手が来てしまう。 そうなってはせっかく盗んだ品が、お役人に返ってしまう。
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