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視界の端に始めてその白を捉えたのは、戦も終わって間もない12月上旬だった。
(最近馬鹿みたいに冷え込んできたな)
手足を冷やす冷気に体を震わせながら思った。
山々を鮮やかな紅葉で彩っていた秋も、葉々の落葉により終わりを告げ始めていた。庭の木々にもほとんど葉は無く、衣を失った寒々しい裸木達が立ち尽くしている。
「もう冬が来る、か…」
可弥はどことも知れぬ虚空を仰ぎながら、感慨深気に呟いた。
その呟きの後には沈黙が尾を引き、暫く時間の止まったような静寂が続いた。
が、
ダッダッダッダッダッダッダッ――
スパァンッ!!
「可弥殿おぉぉぉぉっ!!!」
「幸村うるさいもっと静かに入って来い」←冷
ドタドタと激しい足音が近づいて来て、可弥の自室の襖を勢い任せに開けた。
可弥は背後からの大声に耳を塞ぎ、振り向かずに淡々と注意した。
かなり冷めた声色だったせいか、その人物――真田幸村は少ししゅんとなる。
「す、すまぬ」
「わかればよろしい」
振り返り微笑むと、幸村はぱっと顔に笑みを浮かべた。
(この子はホントに犬みたいでかわいいな)
男に対してかわいいなんて使うと失礼なんだろうが、些細な事で表情がころころと変わる素直な性分の彼を表現するのにはこの言葉が1番しっくりきてしまうのだ。
「で、どうした?」
「おお!そうであった!可弥殿、表をご覧くだされ!」
「? 表?」
言われ、幸村の隣に来た可弥は庭に目を移した。
はらりはらりと舞い落ちる白。
まだ幾分か地面が温かいせいだろうか。地に落ちては溶け、一瞬で消えてしまう。
空から降るそれに、幸村から言われて始めて気付いた。
「…雪か。道理で寒いわけだよ」
「そうでござる!もう冬は間近でござるよ!」
「楽しそうだなお前は」
「無論でござる!」
凄い満面の笑みだな。そんなに冬が好きか?
犬は喜び庭駆け回りって歌詞があるけどお前はそれか。
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