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「雪は良いでござる。趣があって美しい」
かわいいと思っていたところにそんなことを言われたものだから、可弥は面を食らって幸村を見た。
(…こいつにもそんな趣感じるような繊細な感覚があったのか)←酷い
可弥がいつも知っている幸村は、お館様馬鹿で熱血漢な戦馬鹿という感じでしかなかった。
しかし今、雪が舞う様を眺めている彼からは聡明な印象を受ける。
(そうか、幸村にもそんなところがあったのか。着流し姿のせいか?気のせいか何だか知的に見え―)
「それに雪景色を楽しみながらの団子など最高ではないか!」
「………」
結局そこかよ
輝かんばかりに笑う幸村にそんな眼差しを向けた。
「…まぁ、幸村らしいと言えばらしいな」
和やかな空気に自然と頬が緩む。
すると、幸村が可弥の顔をじっと見つめてきた。
かちりと合ってしまった目。
(は、放せない…)
互いに見つめあったまま、おかしな沈黙が続く。
流石に居心地が悪くなり、先に口を開いたのは可弥の方。
「…な、何だ」
「可弥殿はよく笑われるようになった」
「え?」
「半年程前など、笑うどころか話しすらしてはくれなかった。しかし、今はよく笑ってくれるでごさる」
「…そうか?」
「そうでござるよ。某の事など三ヶ月程前までは名で呼んでもくれなかったでござる!」
そう嬉しそうに話す幸村に、可弥は苦笑気味に笑った。
確かに今まで自分は、ここまで他人を近くに置くことはなかった。
しかし、自分でも理由はわからないが、気付いた時には幸村が近くにいる事を許していたのだ。
半年前、傭兵として旅をしていた可弥は戦で襲われていた村人達を守ろうと、無謀にも一人で多勢の兵士達にかかっていった。その後、村人達を安全な所まで逃がしたはいいが、自身がかなりの深手を負ってしまい死にかけるという事態に陥った。
それを救ってくれたのが武田信玄その人だ。
女といえどかなり腕の立つ武人だったため、信玄は可弥を雇う事にしたのだ。
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