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「可弥殿!今日は日がらも良い。団子でもつまみながら雪見でもいたさぬか?」
「雪見ねぇ…」
幸村とは対照的に、可弥の表情は暗くなった。
武家に生まれた可弥は、12才の時に戦で家や両親、主君を失った。何もかもが動かぬ骸となった。
生きているのは、自分だけ。
――父上……母上…………城主様……………誰か、いないの……っ!?――
それ以来、可弥は孤独を埋めるように戦い続けてきた。
何かをしていなければ苦しくて仕方がない。涙が滲む。鳴咽が漏れてしまう。
まるで暗くて深い海底に一人取り残されたような感覚。
そこに密度を増す孤独が堆積していく。
「私な、雪は嫌いなんだ……。冷たくて、幾らでも降り積もる…」
雪はその感覚を体現したようなものだった。
人を殺める度に辛くなっていく。でも、戦う事で確実に孤独は薄れた。
気休めだなんて、わかってたんだ。孤独を辛さで塗り替えたって、どうにもならない事くらい。
心の中に堆積した雪が赤く染まる中、錆び付いた腐臭と刺すような寒さを感じ、今更ながら後悔をしているのだ。
「…ならばなおのことでござる」
「は…?」
少し伏せ目がちに落としていた視線を可弥が上げると、幸村は穏やかな笑みを見せた。
「確かに雪は冷たく、降り積もるものでござる。しかし、冬が過ぎ去れば雪が溶け暖かな春が来る。
それに、寒さを感じる日々の中で暖かき日があった時は嬉しくなるものでござる!そう思うと、雪を眺めるのも楽しくなるというもの」
未だに降る雪を見ながら、幸村は楽し気に語る。
そして可弥に顔を向け、いつもの晴れやかな笑みを見せた。
「雪にも良いところはたくさんあるでござる。雪が嫌いならば、某が好きにさせてみせようぞ!」
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