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体を起こすと、外から聞こえていた興奮した息づかいが収まり、わずかな間だけ静寂に包まれました。
よし、今のうちに警察に電話しよう、そう思い、握りしめていたケータイで110番に電話をかけました。
耳に当てコール音が鳴り出すのを待ってる間、男の持つ懐中電灯の光が部屋を左に右にと動き、遂には私の顔を照らし出してしまいました。
すると男は息づかいではなく、
『起きてたんだ~』
と、粘りつくような低い声を発したんです。
おぎでだんだ~、と聞こえるような濁った発音の声は、耳にこびりついて離れません。
ようやくケータイのコール音が鳴り出したものの、なかなか通話状態にならず、気持ちばかりが焦り、心の中で「早く出て、早く出て」そう繰り返していました。
やきもきする気持ちでいるところに、また外から、
『おはよお~』と、親しげだけど変質的な声が、
『お゛あ゛よ゛お゛~』と聞こえる濁りきったダミ声で話しかけてきたんです。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、何も聞こえない何も聞こえない、早く早く早く早く」
そう自分に言い聞かせて、左手に持ったケータイを力強く握りしめました。
男はまた息づかいを荒くしていました。
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