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狐霊が生きる地は、日本から、海を越えた遥か西方。
人間達はこの西方の大陸を“唐”と言う。
狐霊は、その唐の国の奥深い山に棲んでいた。
山と言っても、寒々しい岩肌が幾重にもそびえ立つ、生き物の侵入を拒むかのような岩山だ。
数億年前に起きた地殻変動により、大地が盛り上がって出来た自然の要塞(ようさい)である。
上空は、そこだけ異空間かのように青空のない灰白色で、山との堺(さかい)がはっきりとしていない。
そんな突き立つ岩のひとつの尖端(せんたん)に、ふわりと人影が降り立った。
否。人間がこの山に入る事はない。では、一体。
白刃の波に似た、白銀のくせのない長髪が、結ぶ事なく、伸びるに任せて風になびいている。
瑠璃の瞳が、自らの手を不思議そうに見つめ、何度も裏表をひっくり返す。
次にその手で自分の顔を触り、形を確かめる。
そうして、自分の体をあちこち触り確かめていると。
「そんなに確かめなくとも、よう化けておるよ」
「翁(おきな)」
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