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真昼から夜まで続いた祝宴も終わり、皆それぞれの穴ぐらへと戻って行った。
両親と崋桜、三匹で暮らす穴ぐらに戻った崋桜は、なかなか寝付けずにいた。
――優しく微笑む両親。笑い、騒ぎ、皆が自分の事のように祝ってくれた宴。
嬉しそうに、ふふっと崋桜から笑みがこぼれる。
髭がそれにつられて微かに揺れた。
が。
ふいに、崋桜の眉間が険しくなり。
「全く。何でいつも刹那はああなんだ。戻って来るなりまた懲りもせず、嫁だ何だと」
刹那の猿芝居を思い出しているのだろう。崋桜の頬が、ぴくぴくと引きつる。
刹那は崋桜より七つ年上だ。
刹那の両親は、まだ生まれたばかりの刹那を残し、野狐に殺されてしまった。
その後、まだ子どもの居なかった崋桜の両親が彼を引き取り、崋桜と共に、我が子同然に育てて来たのであった。
まだ、よちよち歩きだった頃の崋桜は、確かに、しっかりした足取りで歩く刹那の後を、危なっかしく歩きまわって離れなかった。
そうして、刹那が優しげな笑顔を向ける度に、崋桜も無邪気に笑い返したものだった。
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