1章・【遭】

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 まだ、童子が生まれる数年前。  女が“生まれ故郷”を離れる前のこと。  ――狐霊(これい)。  それが、彼女が生を受けた一族の姿。  本来は神仙の山に棲み、太古から、大気や自然の様々な力を操る、霊力を身に付けて来た、狐である。  狐霊は大きく分けると二種族に別れている。  一つは、この物語に後々出て来る、俗に妖狐(ようこ)と呼ばれる“野狐(やこ)”。  そしてもう一つが、彼女が属し、神通力を持って神に仕える善狐(ぜんこ)。  善狐とは、狐霊のなかでも善良とされる狐の総称である。  “善良とされる”とは人間の勝手な解釈に過ぎないのだが。  その善狐も、またいくつかの種族に別れているのだが。  それは追い追い語るとしよう。  人々と善狐との関わりは深く、人間は稲荷神に仕える霊獣として彼等を崇め、彼等もまた、人間を襲う事なく、平穏を是(ぜ)としていた。
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